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JFFインド『祈りの幕が下りる時』伊與田英徳プロデューサーインタビュー

Interview #Cineast #Crime #Event

2020/03/27

 2020年1月、国際交流基金が主催する「第3回日本映画祭(JFFインド)」がインドのムンバイにて行われ、日本映画25作品が上映された。その中で、昨年に引き続いて上映されたのが、東野圭吾のミステリー小説を映像化した、阿部寛主演の「新参者」シリーズの完結編『祈りの幕が下りる時』だ。主演・阿部の「いつかインド映画に出たい」との思いを背負って同作のインドでの上映に駆けつけた伊與田英徳プロデューサー(TBSテレビ)が、Q&Aセッションと個別インタビューにて、同作の制作秘話などについて語った。

<『祈りの幕が下りる時』作品情報>

主人公の加賀恭一郎は、数々の難事件を解決に導いてきた敏腕刑事。ある女性の絞殺死体が発見され、その捜査線上に、加賀と接点のある演出家・浅居博美の存在が浮上する。捜査が進むにつれ、加賀の母が失踪した理由など、加賀自らの過去も明らかになっていく……。「下町ロケット」「半沢直樹」などの福澤克雄監督がメガホンを取った。キャストは、阿部同様にシリーズでおなじみの溝端淳平、田中麗奈、山﨑努が続投した他、松嶋菜々子がキーパーソンとなる浅居博美役として初登場。

<上映後 Q&A>

観客① 素晴らしい映画でした。脚本はどなたが執筆したのでしょうか。

伊與田英徳プロデューサー(以下、伊與田): 脚本家2人と、監督とプロデューサーである僕の4人で考えました。もともと本作は、東野圭吾の小説が原作なのですが、この素晴らしい小説を、どういう形で映像化できるのか、4人で知恵を出し合い、議論を重ねました。

 また、この「新参者」シリーズの物語は、日本でテレビドラマとして長く続いてきたものです。主演の阿部寛さんをはじめ、みんながこの物語を愛してくれたということ、そして監督が情熱を持って撮ってくれたおかげで映像化が叶ったと思うので、感謝したいです。

観客② 劇中曲もとても良かったです。作曲はどのようにされたのでしょうか?

伊與田: 半分は昔からテレビドラマのシリーズで使っているものです。残りの半分は、全ての撮影が終わった後に、作曲家と一緒に映像を観ながら製作しました。

(c)2018 The Crimes That Bind Film Production Committee(c) Keigo Higashino/KODANSHA All Rights Reserved.

観客③ 劇中、加賀(阿部寛)と博美(松嶋奈々子)が劇場で立っている終盤のシーンは、赤がとても印象的でした。そのシーンは何を象徴しているのでしょうか。

伊與田:日本の古い演目で、「曽根崎心中」という2人の愛しあう男女が引き裂かれてしまう話があります。おそらく福澤監督は、それをイメージしたのではないかと思います。作品を通じて、監督は「赤」を強調していて、博美さんの部屋や、最初に登場したお母さんが話をしている時の後ろ姿も赤です。最後の舞台でも「赤」を強調することで、映画全体を印象づけたかったのではないでしょうか。

観客③ 確かに、博美さんの家は赤色に溢れていました。それから、彼女がクローズアップで映るシーンでは、その背景になっていた葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」が赤塗りにされていました。彼女の苦労やトラウマなどを象徴してその色にしたのでしょうか。

伊與田:監督はある時点で、北斎の絵を赤で塗るというアイデアをひらめいたのだと思います。それで美術部と相談し、彼女の心理描写を赤で表現した。僕も実際にそのセットに行きましたが、赤色にうわっと打ちのめされるような感覚になりました。赤は血の色でもありますし、彼女自身の悲劇を象徴する色なので。

観客④ この映画はロケーション撮影が多いように感じました。人通りが多い道路での撮影など、苦労が多そうだなと思ったのですが、実際どうでしたか。

伊與田:ロケ地としては、東京の人形町がメインでした。地元の皆さんが町ぐるみで協力してくださったおかげで、無事に撮影ができました。他にも滋賀県をはじめとして、いろいろな場所でとても皆さんが協力的だったので、それほど難しくはなかったと思います。今度はぜひ、インドで撮影させてください(笑)。

(c)2018 The Crimes That Bind Film Production Committee(c) Keigo Higashino/KODANSHA All Rights Reserved.

<個別インタビュー>

『祈りの幕が下りる時』は、昨年に引き続き、インドでは二年連続上映されることになりました。インドの皆さまの反応はどう予想されていましたか?

伊與田:もともと、阿部寛さんがインド映画に出たいとしきりに言っていたので、どんな国なのだろうと考えていました。2年連続で上映していただけるのはやはりとてもうれしいです。その反面、お客さんが入るのかなと心配でもありました。

今回、インドの皆さんに観ていただいて、思っていたとおりインドの皆さんは映画に対する情熱がすごいという印象を受けました。踊りやホラーが好きだということはなんとなく知っていたのですが、家族愛とか恋愛ドラマといったものが好きなんだなという趣向も分かり、とても興味深かったです。

「これはミステリーだけれども家族の愛の物語でもあります」と上映前におしゃっていましたね。インドの観客にも、家族の愛の部分まで理解していただけたように感じましたか。

伊與田:いろんな見方があると思うのですが、数名のお客さんから情熱的に映画の感想をいただいて感動しました。日本ではなかなか感情をあらわにして感想を言う人はいないと思うので。そういう様子を目の当たりにしたら、阿部さんをインドに連れてきても良かったのかな、と思わざるを得ませんでした。

その中でも印象に残った感想はありましたか。

伊與田:もちろんリップサービスもあるでしょうけれど、犯罪ドラマの中でナンバーワンだと言っていただけたのが、素直に嬉しかったです。

今回の経験を活かして、インドで何かしてみたいというお気持ちはありますか。

伊與田:日本のものをインドに紹介するだけではなく、インド人の方と一緒に何かを作ることができればいいなと思います。だんだん国境というものがなくなってきている中で、肌感としては同じアジア人として、情熱的で人懐っこいところや、仁義を重んじたり、そういうところが近いと感じました。そういう意味でも何かを一緒にできたら面白いだろうと思いました。

シリーズ完結編に相応しく、散りばめられた点が一本の線になっていく巧妙なストーリー展開で、日本でも大ヒットを飛ばした本作。そんな日本でお墨付きの本作に、インドの観客も大いに魅了されたようだ。それは上映後のQ&Aセッションで、賛辞の言葉はもちろんのこと、作品の解釈に踏み込んだ質問が出ていたことからも分かる。インド人の映画に対する確かな目を感じられると同時に、新たな側面もわかり実りある映画上映となった。

取材:高橋和也 / 編集:いしがみえみ

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