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新海誠監督単独インタビュー:『天気の子』制作背景編

Interview #Animation #Cineast

2019/12/06

『君の名は。』(2016)が日本映画史に残る記録的大ヒットを飛ばし、一躍日本を代表するアニメ監督として世界からも脚光を浴びることになった新海誠監督。それから3年、ファンの期待が高まる中で公開された最新作『天気の子』(2019)は、天候の調和が狂っていく時代に、家出をして東京へやってきた少年が、不思議な力を持つ少女に出会い、お互い運命に翻弄されながらも自らの生き方を選択していくというストーリー。地元ファンの署名活動をきっかけにして上映が行われたインドで、新海監督が『天気の子』に込めた思いなど制作背景について語った。

――「天気」は、以前からお考えになっていたテーマなのでしょうか。

新海:昔から考えていたテーマではないです。監督によっては、映画を一本作りながらその次の映画のことを考えていらっしゃる方もいると思うのですが、僕は一本映画を撮る度に空っぽになってしまうタイプで、作っている時はその次に何を作るべきか全く見えず、目の前の一本のことしか考えられないんです。『君の名は。』の製作中も、次の作品のことは全く考えておらず、一本作り終わったときに、次にどこへ向かうべきかというのを改めて考えました。なので、「天気」をテーマに次の作品を作ろうと考え始めたのは、『君の名は。』公開年の2016年から2017年の年頭くらいの時期です。『君の名は。』はとても多くの方に観て頂いたので、次の作品もせっかくだったら、誰にでも関わりがあり、皆で観に行けるような映画にしたいと思いました。たくさんの人が乗り込める大きな船のような映画にしたいという思いがあったんです。そのためにはどんなテーマがあるんだろう、という観点で周りを見渡して考えていたときに、今なら「天気」なのかなと思ったんです。

――『天気の子』はインド以外にも、140以上の国・地域での公開が決定していると伺いました。海外へ作品を展開させたいという意識は、製作時点からお持ちでしたか。

新海:全くないです、ゼロです。むしろその逆を意識しています。例えば同じアニメーションであれば、日本で今、大変人気なのはディズニー/ピクサーの作品で、今年だけでも『アラジン』があって『トイ・ストーリー4』があって『ライオン・キング』があって『アナと雪の女王2』がある。『アラジン』は実写ですが、それ以外は全てアニメーションです。『ライオン・キング』も一見実写ですが、あれはCGアニメーションですから。僕たちは、その巨大な資本と巨大な才能が集まっているディズニー/ピクサーと同じ市場におり、観客からすれば同じ1,900円のチケットで自由に作品を選べます。もちろんリッチなものを観たくて映画館に行くという人がとても多いでしょうから、僕たちは割と不利な条件の下でディズニー/ピクサーと戦わなければならないという状況で作っています。少なくとも僕はそうなんです。

そうなると、彼らはグローバルなマーケットに目を向けて作っているので、同じようなことをやってもとても敵わないだろうなという気がしています。そこで僕は、日本的で足元を深く掘るような作品を作ろうと思いました。日本人の観客がこの夏にどの映画を観ようかと考えたとき、「僕は日本人だから、ピクサー映画より『天気の子』がなんとなく気になる」「そちらの方がもしかしたら面白いんじゃないか」「自分のためのメッセージがあるんじゃないか」と思ってもらえるように、作っています。ただ、そうやって映画を作らないと、結果的に海外でも受け入れてもらえないような気がしているんです。作っているときは特に海外のことは念頭に置かず、日本語で全力で作り、日本語ユーザーにいかに響かせるかということに集中して作っています。

『君の名は。』でも、万葉集についてだったり、キャラクターたちが入れ替わったときの「私」と「僕」という人称の違いであったり、RADWIMPSの歌でもシーンによって歌詞を聞かせるか、登場人物のせりふを聞かせるかといったところで、字幕の処理にとても困るらしいのですが、とにかく海外に持っていくときのことは一旦考えず、まずはネイティブの日本語ユーザーに作品の本当に深い部分で「自分のための映画なんだ」と思ってもらえるものを全力で作ろうと思っています。それができたなら、その先もしかしたら日本の外の人にも興味を持ってもらえるのかもしれない。そういうつもりです。

――その意図は確かに伝わり、海外へと届いていますね。

新海:そうだとうれしいですね。今回の上映で驚いたのは、インドの若い観客たちがとにかく熱狂的だということ、そしてQ&Aセッションで「ずっと会うのが夢だった」と言ってくれたことです。インドで日本映画はまだそれほど存在感がないでしょうし、自分の国に日本のアニメの監督が来ることは、アメリカや中国へ来るのとは違って、あまり想像できないと思うんですよね。今回の署名がなければ、僕がインドに来る機会はなかったのではと思うのですが、来る機会が限りなくゼロに近い監督に対して、何年もずっと会いたいと思っていた人がいる。離れた国にそのようなファンの人がいるんだということが、本当に感動的でした。

インドのファンにも熱烈に受け入れられた『天気の子』。「たくさんの人が乗り込める大きな船」を目指したという、新海監督の意図通り、本作が国をも超えて多くの人びとにとって共鳴できる一作であることを、今回のインド上映が証明した。日本ではすでに2019年度公開映画でNo.1の興行収入を誇るほどの爆発的ヒットを飛ばしている。日本映画界をリードしていく存在として、これからも新海監督の活躍に期待したい。

取材:許斐雅文 / 撮影:近藤未佳 / 編集:いしがみえみ

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