近年の日本映画は、世界でどのように見られてきたのか? 日本と海外の映画人の対談から、日本映画が海外へ及ぼした影響に迫っていく連載企画「海の向こうの日本映画」。
第3回のテーマは「特撮ヒーロー」。1993年からアメリカで放送されている「パワーレンジャー」シリーズを筆頭に、世界のさまざまな国で放送され、その国の子どもたちを夢中にさせてきた。日本発の「特撮ヒーロー」の魅力とは、どこにあるのだろうか。
今回対談に招いたのは、幼少期から日本の「特撮ヒーロー」を見て育ち、2013年には石森プロとタッグを組み、インドネシア初の「特撮ヒーロー」であるテレビシリーズ『ガルーダの戦士ビマ』を生み出し、その映画版である『サトリア・ヒーローズ:暗黒の逆襲』(2017)も世に送り出したインドネシアのクリエイター、レイノ・バラック。そして、2021年に放送開始から50周年を迎える「仮面ライダー」シリーズの原作を管理するプロダクション、石森プロの園田大策に話を聞いた。
取材・文:麦倉正樹 編集:原里実(CINRA, Inc.) メイン写真:Satria Heroes Production Committee
大切なことを教えてくれるヒーローを、いまの子どもたちにも
——インドネシアでは、日本のアニメや特撮は、どんなふうに親しまれているのでしょう?
レイノ:インドネシアで地上波のテレビ放送が始まったのが1989年なのですが、当時海外の番組はアメリカと日本のものしかなかったんですね。インドネシアは子どもの人口がとても多い国なので、そのなかでもとりわけ日本のアニメや特撮が、すごくたくさん放送されていたんです。
『ドラえもん』のようなアニメはもちろん、「仮面ライダー」シリーズや「メタルヒーロー」シリーズといった「特撮ヒーロー」まで……特に、テレビ放送の開始と同時期にスタートした『仮面ライダーBLACK』は、インドネシアでは爆発的な人気を誇っていたんです。ドラマ性も高かったので、子どもたちはもちろん、タクシーの運転手でも知っているほどでした。
——そのような状況を、石森プロはどのように見ていたのでしょう?
園田:正直にいうと、2013年に『ガルーダの戦士ビマ』のプロジェクトが始まるまで、インドネシアという国の市場をそこまで強くは意識していませんでした。ただ、『仮面ライダーBLACK』という作品は、「仮面ライダー」シリーズのなかでも比較的海外でよく見られている作品で、なおかつインドネシアには、かなり熱狂的なファンがいる。そういった認識は持っていました。

——インドネシア版「仮面ライダー」ともいうべき『ガルーダの戦士ビマ』は、どのような発想から生まれたプロジェクトだったのでしょう?
レイノ:まず第一に、私自身の個人的な夢ですね。いま、インドネシアで放送されるテレビ番組のうち7割は、国産のコンテンツであることが義務づけられています。そのため、昔ほど、海外の番組を放送することができなくなっている。いま、インドネシアの地上波テレビ局が放送しているのは、低予算でつくれる国産メロドラマばかりです。
私たちの世代は、日本の「特撮ヒーロー」から、「正義とは何か」「強さとは何か」など、本当にたくさんのことを教わって育ちました。しかしいまは、子どもたちが本当に夢中になれるような番組——果ては、子どもの将来にとって良い影響を与えるであろう番組というのが、ほとんどない状態なんです。
そういうなかで、私はかつて自分が夢中になったような「特撮ヒーロー」番組を、インドネシアでも是非つくりたいと思いました。それで、石森プロに相談に行ったんです。
園田:最初は驚きましたよ。実際、「自分の国のオリジナルヒーローをつくりたい」という話は、これまで私たちのところにもいくつか海外から話がきていたのですが、実現してはいないんですよね。結局みなさん、どこかで挫折してしまう。
やはりいちばんの理由は、予算なのだと思います。「特撮ヒーロー」の制作には、じつはものすごくお金がかかります。番組のスポンサー収入だけでは、とてもじゃないけど持続不可能なんです。なので、最初レイノさんにお話を聞いたときも、「本当にできるのかな?」と思って。
レイノ:私が園田さんの立場だったとしても、きっと同じように思うでしょうね(笑)。
園田:(笑)。ただ、レイノさんと話しているうちに、彼自身が日本の「特撮ヒーロー」から受けた影響の大きさと、それに対する理解度の深さ、そして熱意を深く感じ、「ああ、この人は本気なんだ」と思いました。「『特撮ヒーロー』をつくりたいのは、インドネシアの子どもたちの未来のため」という理由も、すごく印象的でした。
それで、われわれが長年培ってきたノウハウをあますことなくレイノさんに提供し、インドネシアに新しいヒーローをつくろう……否、つくらなければならないんだと、だんだん思うようになって。われわれも、強い使命感のようなものを感じるようになっていったんです。
大切にしたのは、インドネシアの子どもへの「わかりやすさ」
——かくして、日本とインドネシアの合作というかたちで『ガルーダの戦士ビマ』が生まれたわけですが、その際にレイノさんは、どんなことを意識したのでしょう?
レイノ:まず、絶対に1シーズンで終わらせたくないと強く思っていました。長く続くものじゃないと、子どもたちにメッセージが伝わらないからです。そのために大切にしたのは、「わかりやすさ」。まず、子どもたちにとってのなじみやすさを考えて、インドネシアの国章になっている神鳥「ガルーダ」をヒーローのモチーフにしました。また、デザインは国旗に使われている国民色・赤を基調としてもらいました。

——「ビマ」の造形は、現在の「仮面ライダー」シリーズと比べてもまったく遜色ない、非常にクオリティーの高いものに仕上がっていますよね。
レイノ:ありがとうございます。かなり細かく、私のほうから石森プロにお願いしたというか、いろいろ無理を言わせてもらって……。
園田:いや、むしろレイノさんの強いこだわりがあるぶん、われわれも仕事がしやすかったです。石森プロとしても、インドネシアの作品に関わるのは本当に初めてのことだったので、現地の子どもたちにとって何がカッコ良いのかはまったくわからなかったんですよね。なので、レイノさんの細かい注文は、すごくありがたかったです。
インドネシアと日本の合作というと、日本の会社が自分たちの成功体験を現地の人に押しつけるようなイメージを持たれる方もいるかもしれないですが、『ビマ』のプロジェクトは、とにかくレイノさんなくして成功はありえませんでした。日本のファンよりもよほど「特撮ヒーロー」に詳しい——もはやオタクといってもいい方で(笑)。なおかつマーチャンダイズも含めたビジネス的な展開も一緒に考えてくれました。レイノさんと出会えたことが、われわれにとって何よりも幸運でした。

50年続く「仮面ライダー」の普遍的な魅力とは?
——「仮面ライダー」シリーズは2021年で放送50周年を迎えます。シリーズがここまで続いてきた理由、そして「仮面ライダー」が、インドネシアをはじめ世界中の人々から長年愛され続けてきた理由は、どこにあると思いますか?
レイノ:日本の「特撮ヒーロー」には、いろんなフォーマットがありますよね。5人のヒーローがチームで戦う「スーパー戦隊」シリーズや、ロボットに乗って戦うもの、あるいは「ウルトラマン」のように巨大化するものなどなど。『ビマ』を立ち上げる際、私はそのなかでも絶対に、「仮面ライダー」のようなヒーローがいいと言ったんですよ。
なぜなら「仮面ライダー」は、基本的にひとりで戦うヒーローであり、なおかつ変身しても人間とサイズが変わらない。だから、子どもたちにとっても非常に近い存在というか、自分自身が「仮面ライダー」になりきって遊ぶことができるんです。いくら「ドラえもん」が好きだとしても、「ドラえもん」になりきって遊んだりはしないですし、「ウルトラマン」のように巨大化することもできない。そこが私のなかでは、とても魅力的だったんです。
園田:人間が「仮面ライダー」に変身するという構造は、子どもからすると、自分も「仮面ライダー」になれるのではないかという気がしますよね(笑)。その気持ちのもとに、変身ベルトのおもちゃを腰に巻いて、変身のポーズをとる。その魅力というのは、いつの時代の、どの国の子どもたちにとっても普遍的なもので、「仮面ライダー」シリーズの人気の根本を支えるものなのではないかと思います。
——ポーズを取って「変身」することの画期性みたいなものは、たしかにあったように思います。
園田:それにつけ加えるとすれば、「仮面ライダー」のテレビシリーズは、もともと漫画家の石ノ森章太郎先生が、ストーリーやキャラクターデザイン、ネーミングなどの原作に関わり、東映さんが制作するというかたちで始まりました。コミックとテレビシリーズが同時に世に出ていくという、いまでいう「メディアミックス」みたいなことを50年前に発想していたというのは、非常に画期的だったのかもしれません。
さらに、それが日本中でこれほど長くにわたって愛され続けているのは、番組の制作に関わる方々が毎年毎年、新しい「仮面ライダー」を生み出していったという積み重ねの結果でもあります。年ごとに、時代性を加味してそれまでになかった新しい要素を入れ込むなどといった、さまざまな努力の賜物といえるのではないでしょうか。

レイノ・バラック
1984年ジャカルタ生まれ。「愛と希望を与え、家族を大切にする特撮ヒーローをインドネシアの子どもたちにも」という思いから『ガルーダの戦士ビマ』を企画。製作総指揮を務めた。現在はエンターテインメントからリゾート、レストラン事業まで幅広く手がけるPT. Rizki Bukit Abadiグループを経営。
園田大策
石森プロ・専務取締役。『ガルーダの戦士ビマ』において、設定やプロット、キャラクターデザインなどの原作、また脚本やスタッフキャスティングに関与した石森プロの中心メンバーの一人。テレビシリーズの第1、第2シーズン、および劇場版『サトリア・ヒーローズ:暗黒の逆襲』(2017)にプロデューサーとして関わる。
