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台湾出身イラストレーターが描く、日本映画の名ロマンスシーン3選

Column #Romance

2021/08/25

「ロマンティックな名シーン」と聞いて、みなさんならどの映画の、どのシーンを思い浮かべるだろうか。『ローマの休日』(1953)で、スクーターに二人乗りするシーン? 『タイタニック』(1997)で、船首に立ち風に吹かれるシーン? 『君の名前で僕を呼んで』(2017)で、二人が芝生の上で寝転ぶシーン? 映画に描かれたロマンは私たちの胸をいつでも温かくしてくれる。

今回、上海出身の映画ライターの徐昊辰氏に、日本映画史に残るロマンチックな名シーンを3つ選んでもらった。そのシーンをイラストで表現してくれたのは、Night Tempoのキャラクターデザインなどでも知られる、台湾出身の人気イラストレーターShiho So氏。二人の文章とイラストが織りなす、ロマンチックな日本映画の世界へようこそ。

文:徐昊辰 イラスト:Shiho So 編集:森谷美穂、原里実(CINRA, Inc.)

幻の作品『晩秋』を日本の映像美で表現した『約束』(斉藤耕一)

『約束』より、終盤近くの列車の中のシーン

韓国のテレビドラマ『愛の不時着』(2019〜2020)主演のヒョンビンと、アン・リー監督『ラスト、コーション』(2007)のタン・ウェイが共演した映画『レイトオータム』(2010)が、2011年の「第61回ベルリン国際映画祭フォーラム」セクション部門で上映され、高い評価を得た。本作はその後、「第35回トロント国際映画祭」をはじめ世界中の映画祭を席巻。韓国や中華圏で公開されたときも、大きな話題を呼んだ。その波に乗って、広く知られ始めた日本映画がある。それが、斎藤耕一監督の代表作『約束』(1972)である。

映画『約束』予告編

『レイトオータム』と『約束』はともに、韓国の名匠・イ・マニ監督の幻の作品『晩秋』のリメイク作品である。1966年、一般公開前の試写会で絶賛された『晩秋』は、イ・マニ監督の最高傑作と言われたが、「ベルリン国際映画祭」へと輸送する途中にトラブルが発生し、フィルムが消失。当時の韓国では予備のフィルムも用意がなかったため、幻の作品となった。

『晩秋』は、その後4回リメイクされている。その最初のリメイク作品が、斎藤耕一監督の『約束』だ。この映画では、母親の墓参りのため、看守つきで仮出所した女囚・蛍子と、刑事に追われる強盗犯が列車の中で偶然隣り合わせになったことからストーリーが動き出す。たった2日間の、短くも燃えあがる愛の情熱が描かれた作品だ。映画が公開された1972年の日本は、1964年の東京オリンピックを経て、高度経済成長期の終わりごろ。社会から取り残され、辛くとも生きる主人公の二人。冬の北陸という厳しい寒さの風景の中、全編オールロケで斎藤は二人に寄り添っていく。

孤独で寂しい二人。本作は、台詞が非常に少ない。言葉ではなかなか表せない心情を、「映像詩人」とも言われる斎藤が、見事に捉えた。特に、映画の終盤近くで登場する列車の中のシーンは、まさにその象徴だろう。寡黙で落ち着いた表情に反して、二人の情緒は激しく揺れ動いているに違いない。

作曲家・宮川泰が創ったフランス映画風のテーマ曲では、感情の豊かさ、映画で描かれるラブロマンスを完璧に表現。そして、何より本作の主演・岸恵子と、ショーケンこと萩原健一の演技は本当に最高! 特にクローズアップシーンが多い岸恵子の絶妙な表情には、激しい情熱が秘められ、哀愁が漂っているように見える。

冬の日本海沿いを北上する列車、明日が見えない二人。「日本のクロード・ルルーシュ」と謳われた斎藤耕一監督は、日本のロマンティックを多様な映像美で日本映画史に残した。

クライマックスで縮まる二人の距離。『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』(山田洋次)

『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』より、観覧車の中で三郎と螢子の思いがようやく通じ合うシーン

山田洋次原作・監督(一部作品除く)、渥美清主演の映画シリーズ『男はつらいよ』は、日本を代表する国民的映画。「フーテンの寅」こと主人公の車寅次郎は、日本映画史のなかで最も有名なキャラクターの一人だろう。1969年から1995年までに、全50作品中48作品が上映された本シリーズでは、寅次郎が旅する日本各地の美しい風景とともに、彼の恋の行方が描かれている。

映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』予告編

2019年にはシリーズ50周年記念作品として、通算50作目となる『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開。現在のところシリーズ最後の作品となっている本作は、日本国内のみならず、アジアを中心とした海外でも注目され、『男はつらいよ』シリーズと寅次郎が、日本映画文化の重要な一部だと筆者もあらためて認識した。

『男はつらいよ』では、日本の原風景はもちろん、作品のなかで描かれた恋愛模様が注目を浴びた。シリーズ中盤までは、寅次郎が旅先で出会った「マドンナ」に惚れ、親しい仲となるが、故郷である柴又に戻るとラブストーリーから人情ドラマに変わり、寅次郎が失恋してしまう、というストーリーがほとんどである。それでも、毎年多くの人々が『男はつらいよ』を見たいと思うのは、主演の渥美清の魅力もあったのかもしれない。

映画『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』予告編

シリーズが進むにつれ、物語の全体的な構造が少し変わり始めた。映画の序盤は寅次郎の恋愛物語かと思いきや、物語が進むにつれて、寅次郎はゲストの若い二人が結ばれるためにさまざまな協力をする仲人のような役割となっていく。

なかでも特に印象に残っているのは、第30作目の『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』(1982)。この作品の寅次郎は、作中に登場するゲストの二人をいっそう輝かせており、いわば助演男優賞ともいえるような働きぶりだった。松竹の発表によれば、シリーズ歴代3位となる228万2000人の動員を記録した。

本作の寅次郎の旅先は大分県。温泉宿を訪れると、動物園でチンパンジーの飼育係をする青年・三郎と知り合った。純朴な三郎を寅次郎は気に入り、この宿で女中をしていたという三郎の母の法事を手伝う。そしてたまたま同宿だった本作のマドンナ・螢子も、法事に参加することになる。

だが、螢子と結ばれるのは寅次郎ではない。年齢を重ねた寅次郎は、恋愛指導者のように、三郎と螢子の相談役として活躍するのだ。

本作のゲスト俳優は、歌手の沢田研二。当時人気絶頂のスターが、女性には縁のない三郎を演じるというギャップは非常に面白い。一方、マドンナの螢子を日本の実力派女優である田中裕子が演じ、「だって、(三郎が)二枚目なんだもん」という名ゼリフを残した。

二人の恋愛はなかなか前に進まず、終盤の観覧車の中のシーンで、ようやくクライマックスを迎える。日本映画にもよく登場する観覧車だが、こんなにロマンティックに撮られたシーンはなかなかないだろう。閉じられた空間、誰もいない「空中世界」で、二人の若者はやっと本音を出した。寅次郎も、観客たちも祝福したに違いない。

「生涯で一度の恋」を描いた純愛ロマンス『ただ、君を愛してる』(新城毅彦)

『ただ、君を愛してる』より、緑の美しい森でのキスシーン

岩井俊二監督の長編デビュー作『Love Letter』(1995)は、日本国内はもちろん、韓国や中華圏でも絶大な人気を誇っている。中国では、1999年の劇場公開後には、レビューサイトで多くの映画ファンから「アジア映画史上最高の恋愛映画」といった声もあがった。2021年5月20日には22年ぶりに再上映され、興行収入6500万元(約11億円)を記録。日本発の恋愛映画は依然として、アジアでも人気が高いことをあらためて実感させられた。

岩井俊二監督の助監督として多くの作品に参加した行定勲監督が、2004年に手がけた『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)は、公開年の1年間で85億円を記録するメガヒット作品となった。「セカチュー」という略語が流行し、社会現象を巻き起こした。この現象は、日本国内だけでなく、アジア各国でも日本映画の純愛ブームの火つけ役となる。『いま、会いにゆきます』(2004)、『虹の女神』(2006)、『恋空』(2007)など、どれもがアジアで人気作品となった。

『いま、会いにゆきます』は、2018年に『Be With You』として韓国でリメイクもされた

そのなかでも、未だに多大な人気を集めているのが、新城毅彦監督、玉木宏と宮﨑あおいが主演した『ただ、君を愛してる』(2006)だ。市川拓司の小説『恋愛寫眞 もうひとつの物語』に基づいた本作は、オーソドックスの純愛映画といえるだろう。

人となかなか打ち解けられない主人公の誠人は、大学に入学し、もう1人の主人公である静流と出会う。静流は誠人に一目惚れし、写真が趣味の誠人に近づくためにカメラを始める。しかし誠人はすでに、同級生のみゆきに思いを寄せていた。

本作最大の見どころは、間違いなく「静流」という人物である。漢字で「静かに流れる」と書く名前のとおり、まさに「静かに流れる川」を思わせる主人公によって、純愛映画の「純度」を更にレベルアップさせた。映画の中盤で登場する森の中のキスシーンは、まだ静流が一方的に誠人に片思いしている時期である。誕生日プレゼントについて誠人からリクエストを聞かれ、静流は「『恋人同士』をテーマにしたセルフポートレートをコンクールに応募するため、撮影のモデルとしてキスしてほしい」と答えた。誰にも邪魔されることないイノセントな森の中で、最高のロマンスシーンが生まれた。

映画の全編を見終わったあと、このキスシーンがいかに重要なものであるか、観客は思い知るだろう。終盤で明かされる静流の切なる思いは、多くの観客の心に永遠に残るはずだ。静流を演じた宮﨑あおいは、素晴らしい演技を披露した。物語を通じて大きな成長、変化を遂げる静流というキャラクターを見事に演じきったことには、原作者も賛辞を送ったという。『ただ、君を愛してる』は紛れもなく、彼女の20代の代表作であり、そして、純愛映画の黄金時代である2000年代でも最高の一本なのだ。

徐昊辰

映画ジャーナリスト。1988年上海生まれ。中国の映画誌『看電影』や日本の映画サイト「映画.com」などへ寄稿するほか、北京電影学院でも不定期に論文を発表。2020年から「上海国際映画祭」プログラミングアドバイザーに就任。オンライン映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」プロデューサー。

Shiho So

日本で活躍する台湾出身のイラストレーター。1990年生まれ。2016年から活動をスタート、2017年にイラストを学ぶために東京へ。本の装丁や雑誌の挿絵、CDジャケット、アパレルなど多方面で活躍中。

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