2019年の年末に最初の感染者が確認された新型コロナウイルスは、2021年もなお映画業界に影響を与えつづけた。一方で、濱口竜介監督の『偶然と想像』『ドライブ・マイ・カー』が「ベルリン国際映画祭」「カンヌ国際映画祭」でそれぞれ受賞を成し遂げるなど、日本映画界にとって明るいニュースや優れた作品の発表も数多くあった。
世界の映画人たちは、今年の日本映画をどのように見たのか。評論家や映画祭プログラマーなど日本映画をよく知る人々に、それぞれが考える「2021年の日本映画を象徴する作品」を挙げながら、振り返ってもらった。
編集:原里実(CINRA, Inc.) メイン写真:(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
2020年版はこちら:
世界の映画人7人が選ぶ、2020年を象徴する日本映画
2021年の日本映画を語るに避けて通れない、濱口竜介監督の快挙(クリス・フジワラ)
『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介)
『偶然と想像』(濱口竜介)
『ヌード・アット・ハート』『Odoriko(英題)』(奥谷洋一郎)
『三度目の、正直』(野原位)
『ちょっと思い出しただけ』(松居大悟監督)
濱口竜介監督の二作品が世に出たことを筆頭に、2021年は日本の映画界にとって良い年だったといえるだろう。「裏切り」「秘密」「偶然」そして「演技」というテーマは『ドライブ・マイ・カー』と『偶然と想像』の両作品に共通するもので、最後に「贖罪」を描いている点もまた同じである。
「贖罪」を強調したのは、観客が物語の展開についていけなくなることを監督が懸念したためだろう。二作品が掬い取ってみせる感情は広く豊かで、そのなかにはいらだちさえも含まれているが、鑑賞後に優しく甘美な余韻が残る。しかしなんといっても、これらの作品が成功した要因は、何といっても役者陣の演技、そして紆余曲折の続く物語を巧みに紡いでいく監督の見事な技にある。
今年はそれ以外にも、日本映画の明るい未来を感じさせるような良作がいくつか公開された。『Odoriko(英題)』と『ヌード・アット・ハート』は、日本のストリップ劇場の踊り子たちを追った奥谷洋一郎監督のドキュメンタリー映画である。後者は国際共同制作版で、香港出身でパリを拠点に活動するマリー・ステファンが『Odoriko』を再編集した作品だ。それぞれが異なる側面に焦点を当てているものの、「滅びつつある文化」の魅力を存分に伝えているという点は共通している。
野原位監督は『三度目の、正直』のなかで、登場人物の放つ強烈な心の軌跡を描写しているが、先が読めてしまうほどの明確さで見せたり、退屈でつまらなく感じさせるほど曖昧に表現したりはしていない。これまで多くの日本のインディペンデント系映画が挑戦しながらも実現しえなかった「繊細さ」と「強靭さ」を見事に両立させた作品に仕上がっている。
松居大悟監督の『ちょっと思い出しただけ』は、「機会の喪失」を描く物語に(コロナ禍以前の世界への)ほんのり感傷的でノスタルジックな空気が絶妙にはまった作品で、タクシー運転手に扮する伊藤沙莉のチャーミングな演技が出色の一本だ。
クリス・フジワラ
映画評論家、プログラマー。映画関連本に著作・編集で携わるほか、新聞や選集、学術誌に多数寄稿。「エディンバラ国際映画祭」の前アーティスティックディレクター。東京のアテネ・フランセ文化センターをはじめとする多くの施設で、映画上映のプログラム制作も担当している。
驚きの構想とまばゆいほどの映像美で圧倒するアニメ映画(マギー・リー)
『竜とそばかすの姫』(細田守)
『映画大好きポンポさん』(平尾隆之)
『漁港の肉子ちゃん』(渡辺歩)
『ジョゼと虎と魚たち』(タムラコータロー)
『GENSAN PUNCH 義足のボクサー(仮)』(ブリランテ・メンドーサ)
2020年に『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』が歴史的な興行収入を記録した後も、豪華な視覚効果が満載の新たな力作が数多く制作され、アニメ映画は日本のコンテンツ力の代表的存在としての地位を確立してきた。
細田守監督の『竜とそばかすの姫』は、その構想と、まばゆいほどの映像美に圧倒されるアニメ映画だ。内気なティーンエイジャーのヒロイン・鈴(すず)が、インターネット上の仮想世界「U(ユー)」の魅力的なアバターを通して自分の声と出会うというストーリーは、同じく細田監督による『サマーウォーズ』に見られる未来志向のテーマの進化形であり、また前作同様にメタバース(仮想空間)の光と闇を描いている。
『アナと雪の女王』でキャラクターデザインを手がけたジン・キム、イギリスの建築家エリック・ウォン、オスカーのノミネート映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』や『ウルフウォーカー』など優れた作品で知られるアイルランドのアニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」をはじめ、世界でもトップクラスのクリエーターたちとの共同制作である点も、日本のアニメ業界では画期的だろう。
平尾隆之監督の『映画大好きポンポさん』は、B級映画の偏屈なプロデューサーが登場する杉谷庄吾の連載漫画をアニメ化した作品だ。映画制作の現場を、劇中劇のスタイルで面白おかしく描いている。軽いタッチで描いた華やかな少女漫画ワールドと、短期間に集中して行われるタフな映画制作を融合させた結果、「kawaii(カワイイ)」世界観を持つカルト版『ラ・ラ・ランド』とでも呼べそうな作品が誕生した。
今年公開の優れたアニメ映画にはすべて、不利な条件を克服して自らの道を切り開いたり、他者を助けたりする勇敢なティーンエイジャーのヒロインが登場している。タムラコータロー監督『ジョゼと虎と魚たち』の主人公・クミ子(ジョゼ)は足に障害を持っているが、自身の運命が身体的な条件によって決められてしまうことを嫌って、豊かな想像力で魅力的な絵を描き続ける女性だ。
『GENSAN PUNCH 義足のボクサー(仮)』も障害を扱った実写映画であり、「カンヌ国際映画祭」で複数の受賞歴を持つブリランテ・メンドーサ監督ならではの骨太なドキュメンタリースタイルの作品だ。フィジカルな没入感を味わえるこの作品は、「釜山国際映画祭」のキム・ジソク賞に輝いている。
足を切断した沖縄生まれのボクサー、土山直純氏の実生活を、やはり沖縄出身の尚玄が演じている。メンドーサ監督が日本で初めて撮影を行ったのが、2016年のオムニバス映画『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』だ。これはアジア地域における映画交流の推進を目的とした、国際交流基金アジアセンターと「東京国際映画祭」の共同プロジェクトによって制作された作品で、メンドーサ監督は北海道とマニラで撮影を行ない、それぞれの地特有の魅力あふれる競馬文化を描き出した。
今回、フィリピンのミンダナオ島、福岡と沖縄で撮影した『GENSAN PUNCH 義足のボクサー(仮)』は、世界に名だたる映画監督を起用して世界の観客に向けて日本映画を発信する、画期的な方法を示したといえるだろう。
マギー・リー
アメリカ合衆国の雑誌『Variety』のアジア映画評論家チーフであり、『Hollywood Reporter』の前アジア評論家チーフ。これまでにも「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」のプロジェクトマネージャー、「東京国際映画祭」のプログラミングコンサルタント(2010年~)、「CinemAsia Film Festival」(アムステルダム)のアーティスティックディレクター(~2018年)、「バンクーバー国際映画祭」のプログラマー(2017年~)を務めている。
「水俣」をはじめ、日本の社会や史実にも映画を通じて着目が集まった2021年(徐昊辰)
『ONODA 一万夜を越えて』(アルチュール・アラリ)
『水俣曼荼羅』(原一男)
『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(池田暁)
『草の響き』(斎藤久志)
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:Ⅱ』(庵野秀明)
感染者2億5,000万人を超えた新型コロナウィルス。2021年にも、その猛威が続いている。ただ2020年と比べると、多くの国、人々、そして業界は「WITHコロナ時代」のライフスタイルへと徐々に移行し、全力で前に進んでいる。映画業界でも、「カンヌ国際映画祭」をはじめ、多くの映画祭はフィジカル開催され、ハリウッド大作も続々公開された。そのなかでも、2021年は日本映画豊作の年といえるだろう。
まず、濱口竜介監督の監督作『偶然と想像』と『ドライブ・マイ・カー』が「ベルリン国際映画祭」「カンヌ国際映画祭」で連続受賞し、2021年の世界映画界の顔になった。
また、世界から日本のできごとへの注目も高まった年だった。アルチュール・アラリ監督が、太平洋戦争後の約30年目に生還した小野田旧陸軍少尉を描いた『ONODA 一万夜を越えて』はそれを象徴する一本であろう。外部の視点から、日本の歴史上のオノダと日本人としてのオノダを通して、現代社会に人生寓話を送った。
世界のジョニー・デップが日本の公害病「水俣病」にまつわる映画『MINAMATA ミナマタ』を送り出したのも2021年。その後、まるで計画されたかのように、原一男監督による壮大な『水俣曼荼羅』が映画史に放たれた。原監督は高齢にもかかわらず、潜水の免許をとり、20年の歳月をかけて海に潜り調査を行なった。
池田暁監督の『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』は、朝9時から夕方5時まで規則正しく戦争をする町を描いた作品。架空の世界を通じて世に警鐘を鳴らすその手腕は、フィンランドの名匠、アキ・カウリスマキ監督を思わせる。斎藤久志監督の『草の響き』は、俳優・東出昌大の魅力を最大限に引き出し、原作の佐藤泰志が描いた北海道の街・函館を映像に昇華した。
最後は、やはり興行収入約102億円を記録した、庵野秀明監督の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』に最高の敬意を表したい。1995年に始まったアニメシリーズから、数作の劇場版を経てようやく大人になった主人公の碇シンジを見ると、一つの時代にお別れをしたようなノスタルジックを感じる。今後公開が予定されている『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』、そして、シン・庵野秀明に期待したい!
徐昊辰
映画ジャーナリスト。1988年上海生まれ。中国の映画誌『看電影』や日本の映画サイト「映画.com」などへ寄稿するほか、北京電影学院でも不定期に論文を発表。2020年から「上海国際映画祭」プログラミングアドバイザーに就任。オンライン映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」プロデューサー。
多くはパンデミック前に制作された2021年の映画たち。来年以降どうなる?(マリオン・クロムファス)
『サマーフィルムにのって』(松本壮史)
『脳天パラダイス』(山本政志)
『由宇子の天秤』(春本雄二郎)
『二重のまち/交代地のうたを編む』(小森はるか+瀬尾夏美)
『牛久』(イアン・トーマス・アッシュ)
不幸なことにパンデミック2年目の現在も、世界中の人々がコロナ禍の打撃を被っている。日本の映画制作者や映画館にとっても、先行きの見えない状況が大変な試練であることに変わりはない。大きなスクリーンでの上映を断念し、小型モニター画面でプレミア上映された作品もある。オンデマンドの動画配信プラットフォームの勢いが一向に衰えない現状は、災いであると同時に福音でもある。
松本壮史監督のコメディー『サマーフィルムにのって』は、このような厳しい状況のもと鬱々とした気分を少しでも明るくしてくれる。一人の高校生の映画への熱い思いを描いた、素晴らしい作品だ。同じコメディー映画でもワイルドさ全開の山本政志監督の『脳天パラダイス』は、荒唐無稽なキテレツさを味わえる。
春本雄二郎監督が「いじめ」と「情報の変容」というテーマに挑んだ多層的なドラマ『由布子の天秤』が「ベルリン国際映画祭」に招待されたのは、個人的には今年とくに嬉しいニュースであった。2017年の「日本映画祭ニッポン・コネクション」で私たちが上映した春本監督のデビュー作『かぞくへ』に、深い感銘を受けていたからだ。今年のニッポン・コネクションでも、日本のドキュメンタリー映画の力作を多数上映できた。
『二重のまち/交代地のうたを編む』を監督した小森はるかと瀬尾夏美は、2011年に起きた東日本大震災と津波による痛々しい爪痕を描いてみせた。二人の若い女性監督がメガホンをとり、被災地の住民が抱えるトラウマの深さを突きつけてくる実験的ドキュメンタリー映画である。
今年の「日本映画祭ニッポン・コネクション」でニッポン・ドックス賞を受賞したトーマス・アッシュ監督の『牛久』は、私にとって2021年の映画のなかでもとくに重要な1本。牛久の「入国管理センター」で極限状態に晒された収容者へのインタビューを隠しカメラによって撮影し、日本の強硬な難民政策のおぞましさをあぶり出した問題作だ。
2021年公開の映画の多くは、コロナ禍以前に撮影されたものであった。映画制作にとって困難続きであったこの2年間が今後の映画に質的なダメージをもたらすことのないよう、いまはただ祈るばかりである。
マリオン・クロムファス
ドイツのフランクフルト・アム・マインで開催される日本映画祭「ニッポン・コネクション」のディレクター。演劇や映画、メディアを研究する傍ら、1993年に「Exground Filmfest」のプログラムディレクターに就任し、そこで「News from Asia」部門を発足。2000年、約100本の日本映画を上映し、6日間で17,000名以上を動員する映画祭「ニッポン・コネクション」の共同創設者となる。
西川美和や横浜聡子など女性の監督たちの活躍にも注目(マーク・シリング)
『BLUE/ブルー』(吉田恵輔)
『すばらしき世界』(西川美和)
『いとみち』(横浜聡子)
『子供はわかってあげない』(沖田修一)
『まともじゃないのは君も一緒』(前田弘二)
『偶然と想像』が「ベルリン国際映画祭」の銀熊賞、『ドライブ・マイ・カー』が「カンヌ国際映画祭」の最優秀脚本賞という栄えある賞に輝いたことで、濱口竜介監督は今年、国際的にも大いに知名度を上げた。いずれの作品も、受賞に値する出来栄えに違いなかった。
そのほかに注目すべき作品としては『BLUE/ブルー』が挙げられる。自身も30年以上ボクシングを続けている吉田恵輔監督による、骨太なボクシング映画だ。ボクシング界のヒーローをことさら美化することなく、プロボクサーのありのままの過酷な現実を鋭く切り取りながら、それでも彼らがボクシングを愛し続ける理由を教えてくれる力作である。
一方、映画界最前線で活躍する女性の監督も目立ってきた。その中心にいる西川美和監督の『すばらしき世界』は、役所広司演じる年配の前科者の主人公が刑務所の塀の外の世界に溶け込もうと悪戦苦闘する姿を、手加減なしの人物描写でスクリーンに映し出した話題作だ。
『いとみち』を手がけた横浜聡子監督も、活躍めざましい監督のひとりである。今作は、三味線の名人だった亡き母の跡を継ぎたくない人見知りの十代の女の子(駒井蓮)を心温まるタッチで描いた成長譚。監督の出身地でもある青森を舞台に、情熱的な津軽三味線の音色にのせて、ヒロインを取り巻く物語が活き活きと描かれている。
沖田修一監督の『子供はわかってあげない』は、カルト宗教の教祖だった実の父親を探し出そうとする、これまた型破りな女子高生(上白石萌歌)が主人公の物語だ。過去作に続き今回も凡庸なセンチメンタリズムを封印し、辛辣な観察眼に基づくユーモアを散りばめた、心温まるヒューマンドラマに仕上がっており、現代日本映画のなかで卓越した監督であることをあらためて示している。
コミカルな映画という括りで言えば、前田弘二監督『まともじゃないのは君も一緒』もそのひとつに数えられる。変わり者の予備校の数学講師(成田凌)に、教え子の毒舌な女子生徒(清原果耶)が「普通」の異性愛ロマンスの手ほどきをするというストーリーだ。これだけを取り上げれば物議を醸しそうな設定だが、心配ご無用。アップテンポでウィットに富んだ主人公二人のセリフの応酬は誰でも心から楽しめるはずだし、言い争うほどに二人の絆が深まる展開は正統派スクリューボールコメディー(1930年代から1940年代にかけてハリウッドでつくられたロマンティックコメディーの1ジャンル)の味わいがある。
マーク・シリング
日本映画評論家。「ウーディネ・ファーイースト映画祭」の日本担当プログラムアドバイザーを務めるほか、日本を代表する英字新聞『The Japan Times』には30年以上評論文を寄稿。著書に『Art, Cult and Commerce: Japanese Cinema Since 2000』(未邦訳)。
今後ももっと面白く、おかしく、思いやりと愛にあふれた日本映画の誕生に期待(アレックス・オースト)
『ドロステのはてで僕ら』(山口淳太)
『すくってごらん』(真壁幸紀)
『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(江口カン)
『サマーフィルムにのって』(松本壮史)
『海辺の金魚』(小川紗良)
「2021 カメラジャパン・フェスティバル」のプログラム編成に着手したときは、コロナ禍にあったこの1年が映画の制作にどのような影響をおよぼしたのか不安だった。しかし蓋を開けてみると、確かに影響はあったものの、数多くの素晴らしい映画が生み出されていた。
山口淳太監督の『ドロステのはてで僕ら』は、タイムトラベルというモチーフを面白おかしく料理した作品。これを観れば、「低予算=良い映画が撮れない」という定説もアイデア次第で覆せるということがよくわかるだろう。
真壁幸紀監督の『すくってごらん』と江口カン監督の『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』は、「ユニークで素晴らしいアイデアから生まれた笑える映画」という点は同じでも、それ以外には共通点がまったくない。一風変わったミュージカル映画である前者に対し、後者はスピード感あふれるアクション映画でありながらポーカーフェースなユーモアが惜しみなく詰め込まれた作品である。
映画制作はこれまでにも幾度となく日本映画のメインテーマとされてきた。2021年もその例外でないことは、松本壮史監督『サマーフィルムにのって』を観れば一目瞭然である。ストーリー自体は目新しいものではないが、このなかで描かれる映画(ジャンル映画)づくりへの愛は、同じテーマを持つ他の作品に比べてもひときわ輝いて見える。
小川紗良監督の長編デビュー作『海辺の金魚』は、優しい思いやりと愛にあふれた映画だ。一見よくある話のようでありながら、じつはたいへん周到に練り上げられた作品である。
ここに名前を挙げた方々をはじめとする、映画制作に対する確かな情熱をもった、才能豊かでクリエイティビティーあふれる映画監督たちがいる限り、来年以降、もっともっと面白く、おかしく、そして思いやりと愛にあふれた映画がたくさん生み出されることを期待してよいだろう。
アレックス・オースト
ロッテルダムとアムステルダムで開催される日本文化の祭典であり、2021年に16周年を迎えた「カメラジャパン・フェスティバル」のディレクターおよび共同創設者。日本映画をこよなく愛する(なかでもジャンル映画とクラシック映画が好み)一方で、日本産ハードコア・パンクのレコードのコレクターでもあり、日本の中古レコード店巡りが趣味。
「WITHコロナ」の世界に立ち向かう勇気をくれる5作品(洪相鉉)
『海辺の金魚』(小川紗良)
『いとみち』(横浜聡子)
『孤狼の血 LEVEL2』(白石和彌)
『華のスミカ』(林隆太)
『DIVOC-12』(藤井道人ㆍ上田慎一郎ㆍ三島有紀子ㆍ志自岐希生ㆍ林田浩川ㆍふくだみゆきㆍ中元雄ㆍ山嵜晋平ㆍ齋藤栄美ㆍ廣賢一郎ㆍエバンズ未夜子ㆍ加藤拓人)
「立ち上がる」という表現に注目する。英語の「stand up and take action(行動を起こす)」と「regain one’s strength(元気を取り戻す)」の両方の意味を持つこの言葉は、コロナ禍において「不要不急のもの」として映画の位置づけが揺れる現実のなか、新しい希望を示す日本映画の歩みに当てはまる。
タイムラインの先端には、監督になるため俳優デビューした特異な経歴を持つ小川紗良が立っている。2021年に小川が発表したのは『海辺の金魚』。第46回「カンヌ国際映画祭」でパルムドールを受賞した『ピアノㆍレッスン』(1993)の舞台、ニュージーランドを思い出させるような鹿児島県の阿久根市を舞台に、お互いに支え合い癒されてゆく二人の少女の姿をアナログの美感で描いた。
同日、青森で横浜聡子の『いとみち』が先行公開されたのも特筆すべき。地域と調和する作風を追求してきた彼女は、溢れる才気で心温まる物語をつくり出した。
『孤狼の血 LEVEL2』で、ヒットを記録した前作『孤狼の血』をさらに上回る興行収入を記録した白石和彌は、驚天動地の活劇でネット配信の洋画アクションに飽きた観客を楽しませた。「快挙」はまだ続く。15歳のときに華僑4世のアイデンティティーに目覚め、カンザスでジャーナリズムを学んだ林隆太は、コロナ禍による分断を越え、多様性を包摂する社会に進む鍵として移民をとらえた『華のスミカ』でDMZ国際ドキュメンタリー映画祭の招待を勝ち取り、「華」を咲かせた。
実りの季節、10月にはオールスターチームの活躍が輝いた。三島有紀子は『DIVOC-12』を通じて、世代や性別を超えた11人の仲間と映画愛で力を合わせて今日を眺め、共存の明日のために「COVID-19をひっくり返す」と宣言した。
「WITHコロナ」の期待と不安が交差するいま、もし誰かに「われわれは自らの生を守り抜いたのか、日常に戻れるのか」と聞かれたら、筆者はこの5本の映画を勧めながらこう言いたい。「私たちも決して止まらなかった彼らのように、試練に負けず意志を貫こう」と。
洪相鉉
韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大学への留学経験を持つ(パリ経済学校と共同プロジェクトを行なった清水研究室所属)。2008年、プロデュースしたドキュメンタリー映画『For The Islanders』が、済州映画祭開幕作に招待。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは、トップクラスの人気を誇る。
