「カンヌ国際映画祭」オフィシャルセレクション「ある視点」部門に正式出品され、早川千絵監督が「カメラドール 特別表彰」を授与された『PLAN 75』や、11月に公開され快調な滑り出しを見せている新海誠監督待望の新作『すずめの戸締まり』、世界の是枝裕和監督による『ベイビー・ブローカー』。メジャーからインディーズまで、今年もさまざまな映画監督たちが、すばらしい作品を世に送り出した。
世界の映画人たちは、今年の日本映画をどのように見たのか。評論家や映画祭プログラマーなど日本映画をよく知る人々に、それぞれが考える「2022年の日本映画を象徴する作品」を挙げながら、振り返ってもらった。
編集:原里実(CINRA, Inc.) メインカット:(c)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
日本映画で描かれる、女性の生き方と死に方(クリス・フジワラ)
『ケイコ 目を澄ませて』(三宅唱)
『彼を信じていた十三日間』(黒沢清)
『母性』(廣木隆一)
『スープとイデオロギー』(ヤン・ヨンヒ)
『PLAN 75』(早川千絵)
2022年の日本映画には、生き方や死に方に関する女性の選択を描いた物語で特筆すべき作品がいくつか見られた。三宅唱監督の『ケイコ 目を澄ませて』では、プロとして初めてリングに立った試合で勝利を収めるも、次のステップに迷いを抱く、ろう者のボクサーの役を岸井ゆきのが好演している。見慣れたはずの景色が初めて見るもののように見えてくる、日常空間に潜むミステリーを掘り下げたこの作品は、小さなスケールながらも名作である。
『PLAN 75』は、高齢者対象の安楽死サービスが公的制度として提供されている、近未来の日本が舞台の物語だ。早川千絵監督が素材を系統的かつ写実的に扱い、倍賞千恵子のデリケートな演技によって醸し出された空気感を一貫して保っている。ヤン・ヨンヒ監督がメガホンをとった『スープとイデオロギー』は、2005年公開の『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』を起点とする3部作の完結編。在日コリアンというアイデンティティー、そして監督自身の家族がたどってきた軌跡という2つのテーマを、粘り強く、親密かつダイレクトな手法で描き出している。
廣木隆一監督の『母性』は、母と娘のあいだの軋轢と確執に迫った力作。この映画の心理洞察の鋭さとストーリー展開の面白さは、湊かなえの原作によるところも大きいだろう。高畑淳子の大胆なまでの怪演も必見だ。
黒沢清監督の『彼を信じていた十三日間』は、Amazonプライムが配信するシリーズ『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』に含まれる作品だ。男の弱さに食ってかかるような仕事のやり方でキャリアを積んできたジャーナリスト(永作博美)が、信頼に足るものを持たない男たちとの関係に引き込まれていく。ストーリーを巧みに展開し、光と空間を精緻に操って、この小品を魅力的な映画のお手本さながらに仕上げてしまう手腕は、黒沢監督ならではだろう。
クリス・フジワラ
映画評論家、プログラマー。映画関連本に著作・編集で携わるほか、新聞や選集、学術誌に多数寄稿。「エディンバラ国際映画祭」の前アーティスティックディレクター。東京のアテネ・フランセ文化センターをはじめとする多くの施設で、映画上映のプログラム制作も担当している。
変化する家族と父親像のあり方(マギー・リー)
『ベイビー・ブローカー』(是枝裕和)
『マイスモールランド』(川和田恵真)
『流浪の月』(李相日)
『犬王』(湯浅政明)
今年公開されたいくつかの力作では、日本映画の定番である「家族映画」に新たな視点が取り入れられている。それらの作品は、国家や社会からの支援が衰退しつつある状況のもと、「家庭」や「親」といった概念も流動的になっていることを突きつけてきた。そこに共通して存在するテーマは、「父親像の再定義」だ。
捨てられた赤ん坊を育ててくれる代理家族を見つけようと奔走する落ちこぼれの人々を描いた愛情あふれる映画『ベイビー・ブローカー』は、「子どもを育てるにはコミュニティー全体の協力が必要だ」というメッセージを明確に伝えている。『誰も知らない』(2004年)から『万引き家族』(2018年)までの作品のなかで、伝統的な家族構造の崩壊を描いてきた是枝裕和監督。初めて韓国で制作したこの映画でも、血縁を超えた人間同士の絆を探る旅は続いている。また、家族とはつねに同じ状態にあるわけではなく未完成なものだということが、これもまた初めての試みであるロードムービーのスタイルによって示唆されていた。
その是枝監督がエグゼクティブ・プロデューサーを務めた『マイスモールランド』は、日本で難民認定を受けようと奮闘するクルド人の家族を描いた物語だ。埼玉で過ごす楽しい学校生活に溶け込んでいく自分と、父親が抱く祖国や伝統に対する愛着をつかみどころがないと感じながらも尊重しようとする自分。2つのあいだで揺れ動くデリケートな年頃のサーリャをヒロインとして、川和田恵真監督は、無国籍状態に置かれたクルド人の悲劇をあぶり出していく。
『流浪の月』は、家出少女を自分の家に招き入れた男が、容赦なく追い詰められていく物語。男の内に秘めた本性がそれとなくほのめかされる場面もあるが、二人が築いたコクーンのように快適な(セックスレスの)空間と、成長した彼女を暴力的に支配しようとする婚約者との関係とが、対照的に描かれている。
『悪人』(2010年)や『許されざる者』(2013年)、『怒り』(2016年)といった長編作品を観ればわかるように、社会からはみ出した人間の苦悶を李相日監督以上に表現し得る日本の映画監督は、ほとんどいないだろう。李監督は、アウトサイダーのメタファーとして性的逸脱を描き、社会の道徳的偽善を暴き出している。一方、『ベイビー・ブローカー』の撮影監督も務めたホン・ギョンピョによる詩情ゆたかなシネマトグラフィーが、深い鬱屈した感情を呼び起こしている。
『犬王』の湯浅政明監督は、「能」を平安時代(794~1185年)のJポップとして見事に再解釈してみせた。タイトルロールでもある犬王は、凝り固まったミュージックシーンを揺るがすロックスターというわけである。犬王の父親の嫉妬深いキャラクターは、『どろろ』(2007年)を彷彿とさせる。古い秩序を覆そうと奮闘する若き反抗者たちを応援する、ワクワクするような作品だ。
マギー・リー
アメリカ合衆国の雑誌『Variety』のアジア映画評論家チーフであり、『Hollywood Reporter』の前アジア評論家チーフ。これまでにも「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」のプロジェクトマネージャー、「東京国際映画祭」のプログラミングコンサルタント(2010年~)、「CinemAsia Film Festival」(アムステルダム)のアーティスティックディレクター(~2018年)、「バンクーバー国際映画祭」のプログラマー(2017年~)を務めている。
『すずめの戸締まり』は、世の中への希望が感じられる重要な一本(徐昊辰)
『千夜、一夜』(久保田直)
『ある男』(石川慶)
『神は見返りを求める』(吉田恵輔)
『さかなのこ』(沖田修一)
『すずめの戸締まり』(新海誠)
新型コロナウイルスにより落ち込んだ国際秩序は、2022年中盤からおおむね回復傾向を示した。映画業界でも、三大映画祭をはじめ、国際映画祭は通常開催に復活し、活気が戻ってきた。日本映画も2021年の豊作の年に比べたら、『ドライブ・マイ・カー』のような目玉の作品がないものの、素晴らしい映画作家たちが世の中に素敵な作品を送り出し続けている。
長年、ドキュメンタリー界で活躍している久保田直監督は、デビュー作『家路』から8年ぶりに、新たな劇映画『千夜、一夜』を発表。今年「釜山国際映画祭」(韓国)で国際映画批評家連盟賞を受賞した本作は、日本全国で年間約8万人にものぼるという「失踪者リスト」からヒントを得て制作した。愛する人を「待つこと」というテーマで、主人公の苦しみ、痛み、そして無力感を描いたドキュメンタリー的映像を通じて、日本社会の細部まで観察した。観終わったあとの余韻はすさまじい。
近年世界中のさまざまな映画作家が、アイデンティティーをテーマにした作品を続々と発表している。日本国内でも、『海辺の彼女たち』や『マイスモールランド』など、在日外国人を主人公に日本社会の現状を描く作品が増えてきた。石川慶監督の最新作『ある男』は、重層的なミステリーであるが、日本社会におけるアイデンティティー問題も素晴らしい演出力で、完璧に描いた。
また、天才・吉田恵輔監督は『空白』に続き、『神は見返りを求める』で日本社会のいまを鋭く観察。現代日本社会の闇に翻弄された主人公たちのモンスター化は、もうすでにあなたの近くで起きている。一方、『さかなのこ』の奇才・沖田修一監督は、『横道世之介』などよりさらに進化し、観客をイノセントな理想郷に連れ出し、一緒に冒険物語を始めた。
最後は、やはり新海誠監督の新作『すずめの戸締まり』をおすすめしたい。震災、廃墟、そして日本の原風景……美しい新海映像を通して、コロナ時代のいま、たとえ世の中はどんどん酷くなったとしても、世の中に対する希望が感じられる重要な一本で間違いない。
徐昊辰
映画ジャーナリスト。1988年上海生まれ。中国の映画誌『看電影』や日本の映画サイト「映画.com」などへ寄稿するほか、北京電影学院でも不定期に論文を発表。2020年から「上海国際映画祭」プログラミングアドバイザーに就任。オンライン映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」プロデューサー。
シリアスなテーマを扱った良作が多かった2022年(マリオン・クロムファス)
『世界は僕らに気づかない』(飯塚花笑)
『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~』 (信友直子)
『ORIGAMI』(小谷忠典)
『エゴイスト』(松永大司)
『夏へのトンネル、さよならの出口』(田口智久)
2022年は日本映画にとって、非常に重要な意味を持つ年であった。コメディー作品は少なく、死や無常観といったシリアスなテーマを扱った情感あふれる映画が多かったと思う。
小谷忠典監督によるすばらしいドキュメンタリー映画『ORIGAMI』は、若くして亡くなった1人の青年を取り上げ、「第22回ニッポン・コネクション映画祭」でワールドプレミア上映された作品。残された両親の依頼によって故人の肖像画を手がけた画家も、監督とともに作品に登場した。信友直子監督の2作目となるドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~』は、認知症を患った母親を主人公として描いた作品だ。感動的でありながらもふとしたユーモアを感じさせる眼差しで、年老いた両親の晩年を見つめている。高齢化が進みゆく日本社会において、この映画の存在意義は大きいといえるだろう。
田口智久監督のポエティックなSFアニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』は、私にとって今年の収穫と呼べる1本だった。亡くなった妹に会いたいと願う少年が、時空の法則が停止している不思議なトンネルを見つけたことから展開するストーリーだ。
何より嬉しいのは、日本の映画にも「クィア」をテーマとした作品が増えつつあることだ。飯塚花笑監督の『世界は僕らに気づかない』は、ゲイの「ジャッピーノ(フィリピン人と日本人を両親に持つ子ども)」をとりまく偏見を描いた映画。主人公を演じる俳優の、目を見張るような名演がひときわ光る新世代のこのドラマも、2022年の「ニッポン・コネクション映画祭」で国際プレミア上映された。
今年開催された「東京国際映画祭」の個人的ハイライトは、松永大司監督の『エゴイスト』だ。松永監督は、まったく異なる個性を持った2人の男たちのドラマチックなラブストーリーを、濃密かつシンプルに紡ぎ出している。特にその巧みなカメラづかい、そして俳優たちの達者な演技には大いに感銘を受けた。個人的には松永監督作品のなかでも最高傑作だと思うし、世界的な成功も間違いないだろう。
マリオン・クロムファス
ドイツのフランクフルト・アム・マインで開催される日本映画祭「ニッポン・コネクション」のディレクター。演劇や映画、メディアを研究する傍ら、1993年に「Exground Filmfest」のプログラムディレクターに就任し、そこで「News from Asia」部門を発足。2000年、約100本の日本映画を上映し、6日間で17,000名以上を動員する映画祭「ニッポン・コネクション」の共同創設者となる。
『死刑にいたる病』は、ハンニバル・レクターに匹敵する殺人鬼の怪演に注目(マーク・シリング)
『マイ・ブロークン・マリコ』(タナダユキ)
『死刑にいたる病』(白石和彌)
『親密な他人』(中村真夕)
『川っぺりムコリッタ』(荻上直子)
『ノイズ』(廣木隆一)
昨年の「アカデミー賞」で国際長編映画賞に輝いた、3時間にわたるドラマ『ドライブ・マイ・カー』。濱口竜介監督のこの作品は、2022年も引き続き絶賛を浴びた。
少し前は是枝裕和監督、現在は濱口監督というように、日本人映画監督に向けられる世界の注目は1人だけに集まるきらいがあるが、今年はさまざまな監督たちがすばらしい映画を制作してくれた。
タナダユキ監督もそのひとり。女の友情をテーマにした『マイ・ブロークン・マリコ』は、幼なじみの自殺に伴うヒロインの喪失感と罪悪感を、ひりひりするほどリアルに描き切ってみせた。ヒロイン役の永野芽郁は、感情をむき出しにしながらも、繊細且つ重層的な演技で大いに話題となった。
ドキュメンタリー映画を専門に撮影してきた中村真夕監督も、15年ぶりにフィクションの長編映画を手がけた。心理スリラー劇『親密な他人』だ。成人した行方不明の息子の帰りを待つ母親が、ハンサムな特殊詐欺師の青年を自宅に招き入れてしまい、いつしか疑似親子のような関係になっていく。悩みを抱えた女性を演じる黒沢あすかが、ひときわ輝きを放っている。クライマックスのシーンには心を揺さぶられるとともに、曖昧さが漂う余韻に魅了される。
それとは対照的に、奇天烈かつ滑稽でありながら、深く崇高な世界観をつくり出した、荻上直子監督の『川っぺりムコリッタ』。松山ケンイチ演じる主人公は、出所したばかりの前科者。彼が新しく住むアパートに集まった、ひと癖もふた癖もある人たちとの交流を通して、固く閉ざされた心の殻が開かれていく。やがて彼は、父親の死に正面から立ち向かうことになる。洞察力にあふれた懐深いヒューマニズムとギャグの絶妙なバランスは、荻上監督ならではだろう。
廣木隆一監督のミステリースリラー『ノイズ』は、孤立したコミュニティーで起こった事件を詳細に描く。ある孤島でイチジク栽培に成功した農家の男(藤原竜也)は、島に入り込んだひとりのサイコキラーを誤って殺してしまい、友人とともに事件を隠ぺいしようとする。いくつものウソや長いあいだ秘められていた敵対心が表面化するなど、二転三転する物語が観客を引きつけ、最後にはカタルシスを感じられる展開が待ち受けている。
白石和彌監督の『死刑にいたる病』は、さらにダークな内容だ。阿部サダヲが演じるのは、有罪判決を受けた連続殺人犯。彼の犯罪歴にあるひとつの殺人事件の真相を探る若い法学生を、このシリアルキラーが執拗に追い詰める。かの有名なハンニバル・レクターを演じたアンソニー・ホプキンスと比較して語ってもけっしておかしくはないが、阿部が「アカデミー賞」で主演男優賞を受賞するチャンスは、残念ながらゼロである。濱口竜介監督が浴びている世界のスポットライトは、阿部や白石監督の頭上にはまだ輝いてくれないようだ。
マーク・シリング
日本映画評論家。「ウーディネ・ファーイースト映画祭」の日本担当プログラムアドバイザーを務めるほか、日本を代表する英字新聞『The Japan Times』には30年以上評論文を寄稿。著書に『Art, Cult and Commerce: Japanese Cinema Since 2000』(未邦訳)。
社会的弱者の姿に焦点を当てた良作たち(アレックス・オースト)
『ぜんぶ、ボクのせい』(松本優作)
『前科者』(岸善幸)
『スポットライトを当ててくれ!』(高明)
『破戒』(前田和男)
『Ribbon』(のん)
興味深い映画には、いわゆるはみ出し者や社会のアウトサイダーを主役に据えている作品が多い。はみ出し者になる経緯は、自らが選択した場合もあれば、環境や偏見、因習による場合までさまざまだ。松本優作監督の『ぜんぶ、ボクのせい』は、二人の主役がどちらもこのカテゴリーに属している。ともに社会のはぐれ者とされる孤児の優太(白鳥晴登)と、そんな優太と関わりを持つホームレス、坂本(オダギリジョー)の物語だ。
岸善幸監督の『前科者』は、アウトサイダーを生んだのは環境か、あるいは本人が選んだ結果なのかを問いかけてくる。この作品では、仮出所人よりも保護司・佳代(有村架純)を中心にストーリーが展開する。自分が担当する前科者の男は、果たして世間が考えるほど罪深いのか。その答えを見つけようと、彼女は全身全霊で手探りを続ける。
100年以上前から今日まで議論が絶えることのない「部落問題」をテーマに取り上げたのは、前田和男監督の『破戒』だ。重い主題にもかかわらず、幅広い観客にアピールできる作品に仕上がっており、あらゆる人々にしっかりとした教育を施すことの重要性を、説教臭さを感じさせることなく訴えかけている。
毎年必ず登場するのが、「映画を撮ること」をテーマとした作品だ。今年は高明監督の『スポットライトを当ててくれ!』がまさにそれにあたる。この作品では、映画の撮影そのものよりも制作現場が主に描かれる。世間的には厄介者の集団のように見えるクルーたちは、映画をつくる必要性に駆られているという共通点で全員つながっているのだ。
俳優、アーティスト、ミュージシャンであり、初めてメガホンをとったこの作品では主役も務めたのん監督の『Ribbon』に共通するのも、やはり何かをつくり出さずにいられないという人間の思いである。主人公は厳密にはアウトサイダーとは言えないものの、パンデミックのもとで孤立した自己と向き合い、それに近い状態になりかけている。
アウトサイダーという存在にスポットライトを当てることで、人々が抱える葛藤を浮き彫りにし、初めて触れることのできるテーマもある。それによって多くの名作が生み出されうることは、2022年に発表された数々の映画を見ても明らかだ。
アレックス・オースト
ロッテルダムとアムステルダムで開催される日本文化の祭典であり、2021年に16周年を迎えた「カメラジャパン・フェスティバル」のディレクターおよび共同創設者。日本映画をこよなく愛する(なかでもジャンル映画とクラシック映画が好み)一方で、日本産ハードコア・パンクのレコードのコレクターでもあり、日本の中古レコード店巡りが趣味。
跳躍する日本映画の未来はすでに始まっている(洪相鉉)
『ハケンアニメ!』(吉野耕平)
『キングダム2 遙かなる大地へ』(佐藤信介)
『夢見びと』(ケンジョウ・マクカーテン)
『LOVE LIFE』(深田晃司)
『ヘルドッグス』(原田眞人)
エディンバラのロイヤルマイルにあるキャンディストアの、さまざまなキャンディが並んだショーケースを思い浮かべる。ギフトボックスにどれを入れようか考えるときの幸せな悩み。まるで産業的な可能性と多様性に恵まれた今年の映画業界のようだ。
スタートラインにあるのは、吉野耕平の『ハケンアニメ!』。「全州国際映画祭」(韓国)で圧倒的人気を博した同作は、主人公の女性キャラクターのダイナミックな魅力と、実写にとどまらずアニメーションの世界まで表現を拡張した創造力が際立つ。
佐藤信介の『キングダム2 遙かなる大地へ』の成功も見逃せない。ドラマの完成度とテクノロジーが見事に調和した映画体験をつくり出し、コロナ禍で萎縮していた人々を映画館に集めた。
ケンジョウㆍマクカーテン『夢見びと』も注目すべき一作だ。イギリス人の父と日本人の母を持つ、ロンドン出身の彼は、今作で日本でのデビュー。「堤川国際音楽映画祭」(韓国)は、驚くべきコストパフォーマンスで製作されたインディーズ版『ラㆍラㆍランド』ともいうべき本作に出会えた。
深田晃司の活躍も相変わらずだ。家族の危機を描く『LOVE LIFE』は、ベネチア国際映画祭でスタンディングオベーションを受けた作品性に加え、映画的エンターテイメント性も申し分ない。
情熱あふれる大御所・原田眞人は、死ぬまで戦場を駆け回ったイングランドの獅子心王・リチャード一世を思わせる活躍ぶり。グローバルな普遍性で全世代を熱狂させうる作品『ヘルドッグス』は、公開時73歳という年齢を一切感じさせない。映像作家に生物学的年齢は無意味だということを証明した。
以上、日本国内の劇場・映画祭での公開順を目安に紹介した。原稿の分量制限が惜しいほどの活躍を振り返り、あらためて実感する。跳躍する日本映画の未来はすでに始まっている。
洪相鉉
韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大学への留学経験を持つ(パリ経済学校と共同プロジェクトを行なった清水研究室所属)。2008年、プロデュースしたドキュメンタリー映画『For The Islanders』が、済州映画祭開幕作に招待。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは、トップクラスの人気を誇る。