4年に一度開催されるオリンピック・パラリンピックには、諦めない心、努力、感動、栄光——私たち人間にとって欠かすことのできない根源的な要素が凝縮されており、世界中の多くの観客を魅了している。そんなオリンピックの精神は世界共通だが、その一方イベントの雰囲気は開催地によって特色が表れる。注目を集めるのは、オリンピック開催2回目の東京だ。日本のテクノロジー、建築、インフラ、そしておもてなし文化が世界のアスリートを迎える中で重要な役割を担う。
東京オリンピックには、どんなことが期待できるだろう。その答えは、多くの日本人が”スポーツ“を、趣味やプロスポーツのキャリアだけではなく、個人の成長のための過程として捉えている観点を紐解くと分かってくる。
そのためには、日本で人気の”スポーツ”をテーマにした映画を観るのが一番だ。早速、お勧めの5作品をご紹介しよう。
1. ウォーターボーイズ, 2001
『ウォーターボーイズ』は、男子高校生が新任の美しい女性教師に触発されてシンクロナイズドスイミング・チームを結成する物語である。文化祭でシンクロを披露した埼玉県立川越高校の実在の生徒たちがモデルとなっており、本作で知名度を上げた川越高校には今日でも見学者が訪れるという。映画は、涙あり笑いありの厳しい練習を経て、知識も興味もなかったシンクロナイズドスイミングという競技に一生懸命取り組み、成果を挙げる少年たちの姿を描いている。
青春コメディーで知られる矢口史靖監督は、本作でも独自のスタイルを織り交ぜ、川越高校の少年たちの精力的な姿を見事に捉えている。『ウォーターボーイズ』では、”スポーツ”が平凡な日常生活を一変させ、人間の日々の成長に大きな価値を与えうるものであることを描いている。
キャスト:妻夫木聡、玉木宏
監督:矢口史靖
2. キッズ・リターン, 1996
『キッズ・リターン』は2人の非行少年・シンジとマサル、そしてその2人の辿る道に焦点を当てている。プロボクサーを目指すシンジとヤクザとなったマサルだが、それぞれ道が突如として閉ざされ、虚しさと共に取り残される。しかし、作品に込められたメッセージは敗北ばかりを意識したネガティブなものではない。絶望に満ちたどん底からは這い上がるしかないという、アスリートならきっと共感できるメッセージだ。
『キッズ・リターン』は、1994年のバイク事故で身体の一部分が麻痺する怪我を負った北野武監督が自身の経験を振り返って制作した作品でもある。北野監督の人生とキャリアに大きな影響を及ぼした事故後のリハビリ期間中に制作された本作は、全てを失っても前を向く強さを描いたスポーツ映画だ。
キャスト:金子賢、安藤政信
監督:北野武
3. ピンポン, 2002
『ピンポン』は単なる高校テニス部の物語ではなく、いろいろなタイプのスポーツマンを細かく観察した映画だ。作中にはタイプが異なる3人のキャラクターが登場する。多くのアスリート——少なくともプロになる前の姿——がそのどれかに当てはまるであろう。熱心だがすぐに自惚れるペコ、才能はあるが競争することに関心が薄いスマイル、そしてスポーツを挑戦と捉え長い間楽しみを見出せなかったドラゴン(風間)。彼らの性格のぶつかり合いを描いた本作は演劇のように進行するのだが、ドラゴン役を演じた中村獅童の配役決定までの経緯は、役柄と非常に符合する部分がある。歌舞伎役者である中村は、舞台での演技を磨くため他の形の演技に挑戦してみようとオーディションを受けた。直接スポーツには関係しないが、中村のその姿勢はひたむきに努力するアスリートの心に響くだろう。
キャスト:窪塚洋介、ARATA、竹中直人
監督:曽利文彦
4. フライング☆ラビッツ, 2008
努力の末キャビンアテンダントとなり、順調に仕事をこなすゆかり。だが、会社のバスケットボールチームに入団することになり、そこでスポーツの才能がないことを思い知らされたゆかりは自信をなくす。しかし時とともに、彼女は、これまで仕事で実践してきたあらゆること——ひたむきな姿勢や、他者の気持ちを先回りして汲み取ること、チームの一員として個人が努力すること——が、バスケットボールでも活かせることに気づいていく。映画のように、日本では従業員が会社のスポーツチームに入団することがよくある。企業でもこのような取り組みがあるのは、作中でも描かれるが、仕事とスポーツには共通点があるという日本人の意識が根底にあるからだろう。
撮影に向け、石原はバスケットボールとキャビンクルーのトレーニングを受け、2つの世界についていろいろな事を学んだという。例えば、日本人の女性フライトアテンダントは着席している乗客を45度の角度から見てしまうと誘惑していると勘違いされることがあるため、それを避ける工夫をしているそうだ。大変興味深い情報である。
キャスト:石原さとみ、真木よう子
監督:瀬々敬久
5. 劇場版 弱虫ペダル, 2015
人気テレビアニメ、そして漫画のアニメ映画化作品である『劇場版 弱虫ペダル』の脚本は、自身の経験を元に原作漫画を描いた渡辺航が手がけている。渡辺が担当編集者との会話で今夢中になっていることを聞かれ、「自転車」と答えたことで新作のテーマが決まり、漫画『弱虫ペダル』が誕生した。渡辺自身がモデルとなった主人公・小野田坂道は、自転車の才能があることを知り自転車競技部に入部する眼鏡をかけたオタク。映画で小野田は友人と共にトレーニングを積み、タフなことで知られる架空の熊本火の国やまなみレースに挑戦する。
日本で自転車は文化の一部と言っても過言ではないが、自転車競技の物語は非常に珍しい。チームワークにうってつけの競技として描かれた自転車の物語『劇場版 弱虫ペダル』は、その珍しさの点でも一見の価値がある。コミック、舞台、アニメで人気を博す『弱虫ペダル』は、アイドル・永瀬廉主演の実写版公開が2020年8月に予定されている。
キャスト:山下大輝、鳥海浩輔
監督:長沼範裕
スポーツに重きを置く日本人にとって、子供が幼少期からスポーツに親しんだり、部活で放課後の半分をスポーツに費すことはさして驚くべきことではない。
また、大人になっても練習を続け、企業のチームに入ってスポーツをしたりするのも納得できる。日本においてスポーツは、物事に一生懸命取り組む姿勢や継続すること、諦めない気持ちなど、日本社会で重んじられる美徳を学び実習する機会なのだ。映画からも見て取れるが、これらの価値観はスポーツの域を超え、生活のいたる部分に影響する。
待ちに待った東京オリンピック2020に向け準備が進められる中、今年も新作スポーツ映画の公開が予定されている。廃部寸前のハンドボールチームが復活するところを描いた『#ハンド全力』、そして中条あやみ主演のエネルギッシュな女性パラカヌー選手の物語『水上のフライト』——これらの作品も楽しみだ。
文:ストゥルシェヴィッチ・ツェザーリ